4年に一度行われるサッカーの祭典、ワールドカップ。この大会が開催される度に管理人が質問される事があります。その質問とは…
「イングランド代表って、どうしてイギリス代表じゃないの?」
小学校で誰もがイギリスという国について習いますので、確かにイングランド代表という言葉には違和感があるかもしれませんね。
既にワールドカップを待ちきれなくなっているウキウキ感と共に、イングランド代表とイギリス代表の違いについてお届けしていきますので、一緒に見ていきましょう。
ちょっと難しい問題を含んでいますが、サッカーを別の角度から楽しむキッカケになるかもしれませんよ。
地域別の代表チーム
イングランドはイギリスの一部です。これはご存知の方も多いでしょう。
イギリスの正式名称は…
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国
その名の通り、イギリスは以下の画像の様に4つの地域から成る連合国です。
オリンピックは「主権を持つ国」単位での代表チームの参加しか認めていません。しかし、サッカーのワールドカップでは「国もしくは地域」での代表チームの構成を許可しています。
上記のイギリスを構成する地域は、それぞれ別のサッカー協会を持っています。
その為、ワールドカップには、イギリス代表では無くイングランド代表やウェールズ代表として出場しているという訳です。
でも、どうしてワールドカップは地域別の代表チームでも参加する事が出来るのでしょうか?
これには、近代サッカーが広まっていく経緯が大きく関係しています。
サッカーの誕生
イングランドがサッカーの母国と呼ばれているのを聞いた事がある方も多いのでは無いでしょうか。
元々、世界中に昔からボールを蹴る遊びは存在していたのですが、近代的なサッカールールが初めて整備されたのは、イングランドの学生スポーツの舞台でした。
当時は学校ごとに別々のルールで行われていたのですが、これだと当然、対外試合の度にルールの調整が必要となります。これではいけないぞと、何度も協議を重ねた結果、1846年にケンブリッジ大学を中心とした共通ルールが生まれました。
その後、プロスポーツとしてのサッカーを整備する為に、1863年にザ・フットボール・アソシエーション(イングランドサッカー協会)が創立され、近代サッカーが形作られていったのです。
FIFAより先に作られた地域別協会
イングランドで始まったサッカーは、最初にイギリスの各地域に広がって行き、ウェールズやスコットランド、アイルランドでも独自のサッカー協会が作られました。
そして、この魅力的なスポーツはイギリスの繁栄と共に各国に渡って行き、いつしか世界中で大人気の競技となります。
すると当然、どこの国が強いのか、国際試合を開催する必要が出て来ますよね。その為に、国同士の試合を管理・統括する組織、FIFA(国際サッカー連盟)が1904年に設立されました。
しかし、このFIFAの設立には大きな問題がありました。
それは、近代サッカーの母国、イギリスに4つの異なるサッカー協会が存在していたという事です。
世界大会を開催する為に
FIFAの誕生はイングランドにサッカー協会が設立された41年後。既にイギリス内では、イングランドだけでなく、他の3地域にも協会が作られており、地域間での試合が開催されていました。
これでは、FIFAがイギリスという国の代表チームを作ってもらいたくても、一筋縄では行きません。
と言うのも、それぞれの地域に協会があるという事は、試合から得られる収入などの利権も当然バラバラだから。また、それぞれの協会に独自の方針もありますからね。
協会を1つにまとめないといけないのであれば、イギリスはFIFAには加わらないと主張しました。
しかし、FIFAとしてはイギリスに参加してもらう必要がありました。イギリスはサッカーの母国であるだけでは無く、サッカー界においての圧倒的な影響力を持っていたので、決して無視出来る存在では無かったのです。
そこで、元々FIFAが提唱していた、「1カ国1チーム」というルールを変え、「地域別」での参加を承認したのです。
こういった経緯がありますので、現在でもFIFAの主催する大会ではイギリス4地域の他、フェロー諸島や香港、グアムと言った地域別の代表チームも参加しているんですよ。
どうして今でもイギリス代表が作られないの?
イギリス国内にある4つの代表チーム…
- イングランド代表
- ウェールズ代表
- スコットランド代表
- 北アイルランド代表
この中で、イングランド代表はほぼ毎回ワールドカップ予選を突破していますが、本大会では中々上位進出が出来ていません。他のチームに至っては、ここ数十年、予選落ちを繰り返しています。
しかし、例えばウェールズ代表には、現在スペインの名門チーム、レアルマドリッドに所属するガレス・ベイルという国際的な選手もいます。
であれば、この4つの代表チームを統合して、イギリス代表としてワールドカップに出場すれば、より好成績を残せるのではないかと思いますよね?
しかし、これは簡単ではありません。先に挙げた利権の問題だけでは無く、歴史における民族間の問題もはらんでいるからです。
イギリスの歴史を簡単に
この内、圧倒的に力を持っていたイングランドが、ウェールズとアイルランドを併合(現在ではアイルランドの大部分が独立)、スコットランドと連合する形で現在のイギリスが出来上がりました。
言葉を選ばずに言わせて頂けば、ケルト系の国家がイングランドによって征服されたという歴史があるという事です。
その為、現在でも各地域では独立運動が盛んに行われています。当然、それぞれの民族が各地域の代表チームにプライドを持っていますので、イギリス代表チームを作り上げるのは至難の業という訳ですね。
2012年に開催されたロンドンオリンピックでは、イギリスの首都、ロンドンでの開催という事もあり、サッカーでもイギリス代表が出場しました。
それまでは、オリンピックサッカーでは、イギリスは長年に渡り出場を辞退していましたので、これは歴史的な大事件でした。
しかし、出場が決定するまでには、スコットランド協会が会議にさえ参加拒否の姿勢を表明するなど紆余曲折がありました。しかも、最終的には選手が招集されたのはイングランドとウェールズからのみ(男子の場合)。
スチュアート・ピアース監督は4つの協会所属選手を全て選考対象としていたと発表していますが、スコットランドと北アイルランドの人々は納得が行かなかったのではと思います。
恐らく、再びイギリス代表が国際舞台に出る事は不可能と言っても過言では無いでしょう。
サッカーファンとしては、ワールドカップの舞台で一度はイギリス代表を見てみたいものですけどね…。